noise cancelling

 

福島・浜通りの7つの川をたどって

 

最近のスマホ用のイヤホンに搭載されているノイズキャンセリング機能。周囲の騒音を消して、聴きたい音楽だけを聴くことができる。

 光を混ぜ合わさせるとホワイトになる。同じように、広範囲の同程度の強さの周波数の音を混ぜ合わせると、ホワイトノイズになる。テレビの放送終了後の、あの砂嵐のようなシャーという音のことである。

 noiseの反対語は何か。silenceよりsignalだろう。現代社会では、ノイズ(不要な情報)とシグナル(大切な情報)の判別がつきにくい。ノイズに紛れて、シグナルを見落としていないだろうか。

 そんな問いかけを自分にしながら、福島へ旅に出かけた。

 いわきを出発し、6号線を北上していくと、いくつかの橋を渡る。井出川、富岡川、熊川、葛尾川、小高川、新田川、真野川と、阿武隈山地から浜通りへ流れる7つの川をたどりながら、川面にマイクを近づけて音の採取をした。

 いま、福島第一原発の汚染水の処分方法がメディアを賑わせている。つい最近も、松井大阪市長の大阪湾海洋放出発言が話題になったばかりだ。しかしそれ以外の原発のニュースが取り上げられる頻度はかなり減った。ノイズに紛れて見えにくくなっているだけなのかもしれない。

 阿武隈山地の水源近くまで車を走らせた。川から離れたところで聴く音はホワイトノイズに近い。河原に下りると聴こえてくる音が違ってくる。水がうねったり、渦巻いたり、飛び散ったり、川の個性が見えてくる。

 ビッグデータであらゆる事象の分析が進み、SNSでどんなに情報を得ようとも、ノイズとシグナルを聞き分けるのは自分自身しかいない。福島の7つの川が発するシグナルを私たちは受信できているだろうか。